星空~Triple Bill

 

 星。夜空一面に瞬く星たち。目を瞑り、そっと耳を澄ませば、その星たちの囁く声が聞こえてくる―。

「やっぱり来て良かった……」
 濃い萌葱色が一面に広がる小高い丘に寝転んで天を仰ぐ真澄の横で、小さな溜め息混じりにポツリとマヤが零した。夏の宵、夜露が降り始める深夜。『紅天女』の故郷、梅の里でのことだ。
 以前にも、この壮大な星空を同じようにふたりで眺めたことがある。都会では決して見ることが出来ない満天の星空の下、彼は星の名前を教えてくれた。まだ互いの想いを知らないままでいたときのことだった。
―おれの願い事は……きっと一生叶わない……
 真澄が思わず呟いたひとこと。あのとき彼が願い事を口にしていたら、大きく流れは変わったのだろうか? いや、彼女はまだ自分の想いを自覚してさえいなかったのだから、それは無理なことか。
「そうだろう?」
 夜空の星から自分と同じように草の上に寝転んでいるマヤへと、静かに視線を移す。彼女は両手を頭の後ろで組み、天上で繰り広げられている星たちの大舞踏会にすっかり心を奪われたように見入っている。
 美しい夜の闇のように澄んだマヤの黒い瞳には、キラキラと輝く星たちが映っているに違いない。その同じ瞳に自分の姿が映っているのを確かめることは、何度経験しても飽きることがなかった。
 彼女の瞳の中に映る自分の姿は鏡や写真などで見るより、ずっと透明できれいに見える。自分の中にあるはずの穢れが全て浄化されてしまったような、純粋な魂だけを彼女が捉えているかのような気がしてならない。
「うん。またこの星空を速水さんと一緒に眺められるなんて、夢にも思わなかった」
 マヤもまた、天上の星々から真澄の方へ視線を移した。心臓がドキン、と高鳴り数秒忙しなく打ち続ける。彼の心を乱す、唯一の存在。そして、彼の心に平安をもたらす唯一の存在である彼女が、うっとりとした表情で真澄を見つめていたからだ。
「……あ、ああ、そうだな」
 星を眺める―この行為はある意味、浄化の儀式だった。プラネタリウム。人工的に作られた暗闇と星空。都心では見ることが出来ない星を見せてくれる場所。彼にとって、プラネタリウムは慰めの場であった。
 煌めく満天の星の下、誰憚ることなく思いきり涙を流して自分の中に溜まった膿や穢れを洗い出し、癒されていく。そう、子どもの頃の真澄にとって、本当の自分に戻れる唯一の場所だった。

 

…to be continued