夜の社長室シリーズ

 

 高層階のオフィスから眺める風景は、まるで巨大なスクリーンの中で展開されているようだった。ルビーのような夕陽が沈んでいき、窓の外はアメジスト、サファイアへとその輝きの色を変えていた。

 真澄は長時間に渡るライバル芸能社との交渉を終え、一人で社長室に戻っていた。溜め息をつきながら、ジャケットを脱ぎ捨て、ソファの上に放り投げる。するとポケットから小さな長方形の紙切れが落ちた。屈んで覗き込むと、小さなカードが見えた。
 それは、先日マヤに贈った紫のバラに付けたメッセージを書き損じたものだった。真澄はそのカードを拾い上げると、右手で強く握りつぶした。そのままゴミ箱に投げ入れる。

 椅子を引き一面ガラス張りの窓の方へ向け、深く身を沈める。それから徐に煙草を取り出し、火を点けた。
 最近、煙草の量が格段に増えたと思う。吸ったところで、ここのところのイライラは静まらない。それどころか、余計に神経を突き刺すようだ。だが、無意識のうちに身体がニコチンを求めている。
 真澄は暗闇の中に白く浮かび上がる煙草の煙のように、ゆらゆらと定まらない自分の心を思った。

 ネクタイを緩めると、煙草の火を押し潰した。立ち上がり、社長室備え付けのホームバーまで行き、クリスタルのグラスになみなみとブランデーを注ぐ。
 真澄は呻き声を上げてソファにもたれ掛かると、頭を後ろに逸らした。手の中でグラスをゆっくりとまわし、体温で温めてから琥珀色の液体を啜った。

 窓の外は既に夕闇に覆われていた。広い社長室は窓の外から射し込むネオンの明かりで、かろうじて様子が分かるほどだ。
 真澄はグラスの中の液体を一気に呷ると、ソファにごろりと横になり目を瞑った。

 これこそおれの望んでいたものだ――暗い片隅、神経を麻痺させてくれる強い酒、先に何が控えているかを考える時間。

 

…to be continued