深夜の静寂が息を潜めてヒタヒタと忍び寄る中、真澄は疲れた身体を引き摺って仕事場を後にした。漸く家に辿り着くと広い屋敷内を脇目も振らず真っ直ぐに、自分の部屋へと足を進める。乱暴にドアを開け、虚ろな視線を彷徨わせた。灯りの無い部屋に妙に明るい月光が差し込んでいた。
 力に任せて後ろ手にドアを閉め、そこで初めて詰めていた息を大きく吐き出す。そのままぐったりとドアに身を預けた彼は、疲労の溜まった視神経を刺激するには十分過ぎるほどに眩しい光を遮るように右手で目を覆った。極限にまで達した疲労がドッと押し寄せる。
「……疲れた」
 実際にそうやって言葉にして呟くと、より一層疲労感が増してくる。手にしていたジャケットをぞんざいに放り投げ、鎖のようにギリギリと食い込むネクタイを引き剥がす。さらに少しでも開放感を得たくてシャツを大きくはだけると、勢いに任せて靴下も脱ぎ捨てた。
 死刑台を登るような重い足取りで部屋の中央に据えられたソファへ向かい、深く身体を沈める。肉体は疲れ切っているのに、神経だけは異常に昂ぶっていた。しばらくそうしていたが神経が休まるはずもなく、部屋の奥まで差し込む月の光が深く瞑っている瞼を灼くだけだった。

 悠然と宙から見下ろす月は、満月だった。

 

…to be continued