今年は暖冬だと思っていたのに、今日はまた一段と冷え込んでいる。冷気に晒され寒さに震える街路樹は春を待ち侘びているようで、どこか寂しそうだ。暦の上では春を迎えたとはいえ、本当の春の訪れはもう少し待たなければならないだろう。
その日、マヤは大都芸能社長室に呼ばれていた。
広い部屋の応接セットには華美な所は少しもない。大きな革張りのソファに所在無いまますっぽりと身を預け、大分前に水城が出してくれたロイヤルミルクティーの入ったカップを両手で持ち、ひとくち、またひとくちと口に含んだ。
―すっかり冷たくなっている
ふぅ、と浅い溜め息を吐いて窓の外に目をやると、澄んだ冬空に赤い夕陽が映え、点々と浮かぶ白い雲を淡いピンク色に染めていた。日が長くなり始めてはいるけれど、空はまだ冬の色を濃く残している。
部屋の主である速水真澄は、まだ現れない。
五時の待ち合わせだったのだが、思った以上に早めに着いてしまった。ところが五時を過ぎたというのに、こうして三十分以上もここで待たされている。いつもの如く、会議が長引いているらしい。
真澄はとても忙しい人だ。分刻み、秒刻みで時間と闘いながら仕事をしている。一日二十四時間を、その倍の速度で生きているのではないかと思えるほどだ。そして、その大半を仕事に費やしていた。
それでも、自分のために時間を割いてくれるのは、想いが通じ合う前も後も変わらない。そう思うと、待たされることなど少しも苦にならない。でも―今日は二月二十日、あたしの誕生日。そして日曜日なのだ。そう、日曜なのに彼はこんな時間まで働いている。
分かっている。彼は忙しい人なのだ。
先日のバレンタインのカスタードプリンのお礼に〝きみの誕生日には夕食を一緒に〟と誘われた。真澄からの招待が嬉しくて嬉しくて、不似合いだとは思いつつ、精一杯のお洒落をしてきた。慣れない格好をしているせいか、緊張の度合いがいつもより高い気がする。
もう一度、小さく溜め息を吐いてから冷めた紅茶を啜る。砂糖をたっぷりと入れたはずなのに、ちっとも甘くない。外は凍えるほど寒いのに身体は火照っているからだろうか、ボォッとして、なんだか味まで分からなくなってきたみたいだった。
…to be continued