小春日和~日毎に寒さのつのるこの季節に、時折訪れる春のようなあたたかな陽射しの日。寒い日々の中の天の恩恵。

 秋の色は黄金色、橙、茜、紅……。

 冬の気配が日一日と近づいてくる。街路樹も綺麗に色づき街の色を塗り替え、空は全てを見通せそうなほど澄み渡り、どこまでも高く、青い。見上げれば、晩秋の空にはやわらかそうなひつじ雲がふわふわと浮かんでいた。マヤは机の前の椅子に腰を下ろして台本を開いた。だが、台本を読む代わりに窓の外に広がる美しい庭の方をじっと眺めた。
 やわらかな陽光がさんさんと降り注ぐ、絶好の散歩日和だった。樹々が燃えるように美しく色づく、この季節のこんな午後なら歩くのには最高だろう。鮮やかに色づいた落ち葉が風にそよぎ、山茶花の花が楽しげに咲き乱れている。ゆるやかに広がる茜色の丘がマヤを呼んでいた。
 秋の速水邸の庭は、都心にあるとは思えないほどに美しい。最後まで頑張っていた葉も今は枝を離れ、樹々は剥き出しの姿で静かに光り、輝く青空の下にすっくと立っている。目にする度に色を変え、表情を変え、魅了される。気が付くと、心はいつもこの庭に囚われていた。
 マヤは今、そこに立ち、周囲をぐるりと見回した。十一月下旬の午後の薄日を浴びた庭は、本当に美しかった。これまでに何度も秋を迎えてきたけれど、今年の秋はとりわけ美しい、と彼女は思う。
 この庭が新緑の瑞々しさに満ち溢れていたのは、半年ほど前のことだ。樹々の間を吹き抜けるやわらかな風が頬を擽り、眩しいくらいの陽光が降り注いでいた。あのときはまさか、この庭を毎日眺めながら暮らすことになるとは思ってもみなかった。

 こうして今、庭の一角に立ち止まり、過ぎていった夏と秋を想う。やがて季節が過ぎれば、この庭は冬化粧を始めるだろう。寒くなったら雪が降るかもしれない。一面の銀世界となった庭もきっと美しいだろう。そしてまた、春が巡り来る。季節は時の流れと共に進み、マヤと真澄の間に深い愛情を積み重ねていく。

 

…to be continued