ふっくらとやわらかく
 サクランボのように紅く艶やかで
 誘うように軽やかに動く

 耳を擽る甘い吐息を紡ぎ
 やさしい音楽のような言葉を奏でる
 触れ合えば熱くとろけ
 心の中に小さな炎が灯る

 そんな、彼女の唇

 雨の休日の昼下がり。新緑が美しい彩りを添えている速水邸の庭は、音もなく静かに降り続ける雨のカーテンでしっとりと覆われていた。昨日の気持ちが良いほどの晴天から一転して、梅雨の時季に相応しい天候になっていた。
 リビングの庭に面している大きな窓辺に座っていたマヤは顔を上げ、ガラス窓を絶え間なく流れ落ちていく雨粒を眺めた。錬鉄製のテーブルの上にはブルーマウンテンとホットココア。向かいに座るのは大好きな人。そして、手にはそれぞれ書類と台本―休みといえども、ふたりにはやらなければならないことが色々ある。

 それでも、こうして特に何を話すこともなく、お互いの存在を身近に感じながら過ぎていく時間にゆったりと身を委ねて過ごすのは、忙しいふたりにとって、とても贅沢なひとときだった。

 

 

…to be continued