あたしの恋人は、陰険で、意地悪で、嫌味虫だ。
そしてあたしは、無茶で、無鉄砲で、不器用だ。
お似合いのカップルかというと、そうでもない。何故なら……彼は大きな会社の社長で、誰もがウットリと振り返るほどの容姿の持ち主で、頭だってバリバリに良くて。とにかく、世の女性たちがヨダレを垂らして待ち望んでいる、理想の中にしか存在しない白馬に乗った王子さまそのもの、なのだ。
それに引き換えあたしはというと……チビでちんくしゃ、芝居以外には何の取り柄もない。そりゃ、多少は名前が売れて、ちょっとばかり有名人ではあるけれど。そんな人とあたしが恋人同士だということは、ゴク一部の関係者しか知らない。どうして内緒にしているのかって? 別に不倫とかそういうのじゃないの。
確かに、彼には昨年まであたしじゃない婚約者がいたのだけれど、今はその婚約もスッキリ解消して彼は完全フリーな身となっていた。あたしという恋人がいることは内緒にしているから、世間的には、だけど。だから婚約する前のように、またもや世の女性たちの賞賛の眼差しを一身に受けていた。
あたしと彼とはずっと長いこと犬猿の仲として世間に認知されていて、実際、顔を突き合わせれば口喧嘩しないではいられない、っていうくらい相性が悪かった。あたしは彼のことを〝ゲジゲジの仕事虫〟と呼んで、徹頭徹尾嫌っていた。それは、彼が手に入れようと画策している『紅天女』の後継者候補のひとりにあたしが選ばれていたことに大いに関係していた。
彼が経営する大都芸能に所属しているもうひとりの候補者が後継者に選ばれれば、彼にとって何の問題もない。だけどもし、あたしが選ばれた場合、彼のものにはならない可能性が大きいのだ。
件の『紅天女』の上演権を持つあたしの師匠である月影千草と、彼の義父である大都芸能の会長・速水英介との古からの因縁がふたりの関係に大いなる影を落としていた。そう、月影先生は速水英介の、ひいては大都芸能の手に『紅天女』を渡さないため、ずっと独りで闘ってきたのだから。
それにあたしも最初は彼のことを憎んでいた。汚い手を使って、あたしたちを潰そうとした彼のことを。そして、忘れもしないあの事件――たったひとりの肉親だったあたしの母さんを彼が見殺しにしたと思ったあたしは、彼をとことん憎んだ。
…to be continued