月夜に海辺に出ると、
水に反射する月光は自分だけを照らしている。
どちらに進んでも、どんなに速く走っても、
月の光は自分だけを追い掛けてくる。
この現象をムーングレードという。
†
かつて私は太陽だと思われていた。もちろん、自分でもそうだと信じていた。いつもキラキラと輝いていて、目映い光を放つ存在。近寄り難く、手の届かない存在。そう、確かに私は誰よりも輝いていた。あの子に出会う前までは―。
初めてあの子を見掛けたのは、劇団の稽古場だった。何が面白いのか、両手が真っ赤になるまで高い窓枠にしがみつくようにして、二時間もの間じっと私たちの稽古を見つめていた。劇団員の知り合いでもないのに、芸能社の社長秘書や演出家とは顔見知りだった。
しかも演技を習ったことなど無い、素人だという。それなのに、突然振られたパントマイムで逃げた小鳥を捕まえられないと、本気で困り果てて動けなくなってしまった子。本当にどうしてこんな子が紛れ込んでしまったのだろうと思った。
冴えない子。
それが彼女の第一印象。でも、それは大きな間違いだった。舞台の板の上、スポットライトの下でこそ、彼女は誰よりも美しく輝くのだから。月が真昼の青空の下では目立たない存在なのに、夜空の下では美しい光を放つのと同じ。
劇場の暗闇の中でこそ、彼女は本当に美しくなれる。その抗い難い魅力で人々を魅了し、虜にしてしまうのだ。誰にも負けないほど美しい輝きを放つ。全身に色とりどりの照明を浴びて、どんな色にも染まることが出来る。どんな色にも。
…to be continued