St. Valentine's Day
"もしもし、速水さん? 今晩十時にロイヤルダイトホテルの地下ラウンジで待ってます"
真澄の携帯電話の留守電に、まだ付き合い始めて間もないマヤからの短い伝言が入っていた。今日は二月十四日。そう、巷では恋人たちがより一層親密になれるバレンタインデーだ。
真澄の長く熱いマヤへの想いが、思いがけず彼女に通じたのは昨年の秋のことだった。だが、しかし、想いが通じたからといって二人の仲が急速に発展したわけではない。
相変わらず芸能社の社長と所属女優という立場に、ほんの少し毛が生えた程度…というものだったのだ。つまり、未だに清い交際なのだ、真澄とマヤは。
「マヤ…」
会議と会議の合間のほんのひととき、彼女のことを心に思い浮かべるだけで何とも言えないやさしい気持ちになる。
マヤ――その名前の響きに、心だけでなく身体までもがふわふわと舞い上がりそうだ。
†
約束の時間に遅れること三十分。全く…こういう時に限って会議は長引くし、道は渋滞ときてる。真澄は夜の東京都心の渋滞にイライラしながら、ホテルの地下駐車場に車を滑り込ませた。
実は彼女から誘いの電話が掛かってくるなんて、初めてのことだった。しかも今日はバレンタインデー。ホテルの地下ラウンジなんてマヤらしくないが、いったい何を考えているのだろうか?
「どうしたんだ、チビちゃん…その格好は?」
照明を極力落としたバーラウンジの入り口横にあるウェイティングスツールに、物憂げな様子で浅く腰掛けているのは、紛れも無くマヤだった。
が、しかしその格好はどうだ。肩の出た身体のラインも露わなぴったりとしたカットソーにローライズのジーンズ、小さな手の桜貝のような指先には真っ赤なマニキュア、薄暗いのではっきりとは分からないがメイクもきちんとしているようだ。
…to be continued