再び巡ってきた、バレンタインデイ。昨年のふたりは恋人たちのイベントを、恋人たちらしく寄り添って過ごした。甘い香りとやさしさに包まれた、ふたりきりの夜。あの日から真澄とマヤは何度、同じような夜を過ごしたのだろう。
夜、同じベッドの中で眠りに就き、朝、共にふたりで目覚める。本当に小さくてささやかな―幸せ。昨年の秋、めでたくゴールインしたふたりは、今年のバレンタインデイをどのように過ごすことになるのだろうか?
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季節は巡る。今年もまた、真冬のホットでスイートな恋人たちのビッグイベントがやってくる。
「う~ん、去年はカスタードプリンだったしなぁ……」
マヤは久しぶりに訪れた白百合荘の茶の間で、途方に暮れたように大きな溜め息を吐いた。ケトルが景気よくピーっと音を立てて、湯が沸いたことを知らせる。その賑やかな音に遮られて、彼女の言葉は半ば掻き消されていた。
「何がカスタードプリンだって?」
麗は狭い台所でせっせとお茶の準備をしながら、首だけマヤのいる方へ向けて思い切り声を張り上げる。こんなに大声を出しては、白百合荘のようなオンボロアパートではどの部屋にも筒抜けだ。
「うん。バレンタインデイの話」
小さな漆塗りのお盆に急須と湯飲み、それからマヤが買って来た小ぶりの鯛焼きを載せ、片手には熱湯で満たしたポットを持って暖簾をくぐる。こたつの天板に頬杖を突いてぼんやりと天井を見上げているマヤの横に立つと、麗はこたつの上を片付けるよう、顎で示した。
「バレンタイン?」
マヤが不器用なのは十分承知の上だ。だが、昨年のカスタードプリンの出来栄えをマヤから聞いていたので、まさか今年も彼女が何か作ってプレゼントしようなどと考えているとは思いもしなかった。
「バレンタインって、あんたまた何か作って速水さんにプレゼントする気なのかい?」
こたつの上で無秩序に散乱するミカンの皮や台本を脇に避けて、マヤは辛うじて小さなスペースを作り出した。そこに麗がそっとお盆を置く。マヤと向かい合うようにこたつに入ると、彼女は手早くふたり分のお茶を淹れた。
…to be continued