「水城さん! 今度のパーティでマヤちゃんと速水さんの婚約が発表されるって、本当ですか!」
かつて、大都芸能社長室にアポイントメントなしで乗り込んでくるのは、現在は社長である速水真澄の最愛の婚約者となった〝豆台風〟こと、女優・北島マヤの専売特許であった。ところが今、大都芸能社長室に吹き荒れている台風は、劇団オンディーヌの若手有望株と謳われている、俳優・桜小路優が引き起こすものだった。
またもや水城は頭を抱えていた。
どうしてこう、揃いも揃って自分の周りには頭痛を引き起こすような人物ばかりが集まってくるのだろう? その人物たちは次から次へと問題を起こし、水城を眠らせまいとする。本当は誰かが彼女に嫌がらせをしているのではないだろうか?
墨で描いたような立派な眉が、怒りに合わせて激しく上下する。全く……鬱陶しいったらありゃしない。今年は厄年なのではないかと、本気で疑いたくもなる。水城は新たな台風の目である桜小路を前にして、ことさら大きな溜め息を吐いた。
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彼、桜小路優は―もちろん彼自身は知りようもなかったであろうが―この社長室の主、速水真澄の長年にわたる恋のライバルであり、目の上のたんこぶであった。マヤと出会ったのは真澄よりもほんの少しあとのことであったが、彼女とは年が近いこともあり、何彼と相談に乗ってくれる良き友人として、付かず離れずの立場を保っていたのだ。
しかし、そんな彼も何事にも〝超〟が付くくらい鈍感なマヤが自分よりも演劇に夢中になっていることに耐えられず、一度はこの恋のレースから消え去ったように見えた。事実、マヤと里美茂の初恋宣言があったころでさえ、まだこれほど強い気持ちではなかったと思う。
だが、『忘れられた荒野』で同じ舞台に立つ役者として初めて彼女と向かい合った時、改めてその演劇的才能に畏敬の念を覚えた。またそれと同時に、彼女への忘れがたい恋心が自分の中に残っていたことを沸々と感じたのだった。
…to be continued