最高の休暇(バカンス)とは―第一に、仕事のことを忘れる。第二に、仕事以外の日頃のゴタゴタをも忘れる。第三に、思いっ切り羽を伸ばして、普段だったら絶対に出来ないようなことをする。
……普段出来ないようなこと? 例えば、家から一歩も出ないで自堕落に過ごす。例えば、有名リゾート地で目映い太陽の光の恩恵に浴する。例えば、自然に囲まれた静かな土地で、マイナスイオンを全身に浴びながらささくれ立った神経を鎮める。
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ぽかぽか陽気の小春日和、晩秋の日曜日の昼下がり。水城は自慢の愛車、真っ赤なジャガーXK8のコンバーティブルに乗り、軽やかに鼻歌を歌いながら一路速水邸を目指していた。磨き抜かれた深紅のボディが秋の午後の陽射しを誇らしげに跳ね返している。
明日からの長期休暇に備えて、速水家の人々に旅立ちの挨拶をするためだ。長い黒髪を靡かせて、秋の色に染まる街を疾駆する。ふと見上げた上空一面には気持ちの良い青さが広がり、バカンスを前に彼女の気分は上々だった。
時折感じる、腹部への鈍痛を除いては。
水城は広い車寄せの前にジャガーを滑り込ませると、すっかり秋の色に塗り替えられた速水邸の庭を見渡した。相変わらず手入れのきちんと行き届いた庭からは、微風に乗って枯葉独特の匂いが漂ってくる。その中に混じっているのは……焼き芋の匂いだろうか?
車から降り立ち、思い切り伸びをする。彼女は爽やかな秋の大気を胸いっぱいに吸い込んだ。そのまま視線を広い庭の奥に向けると、真澄とマヤの姿が見えた。真澄は彼女に気付き、ゆっくりと笑いながら高く手を挙げる―。
…to be continued